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東京高等裁判所 昭和43年(く)103号 決定

少年 K・M(昭二五・二・二生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意の要旨は、少年は原裁判所において中等少年院送致の保護処分決定を言い渡されたが、右審判には両親が出席しておらず、また、少年が中央少年ハウスを逃げたということだけで少年院に送致されたことは納得できない。現に右ハウスから逃走したが同所に戻されただけで少年院に送られなかつた者がいる。それに少年の前記逃走は仲間に誘われたものに過ぎず、少年自身は逃げる気は全くなかつたのである。少年は右ハウスに戻つて真面目に生活することを念願しているので、原決定を取消されたいというのである。

よつて按ずるに、少年は昭和四十三年七月十一日原裁判所において審判の結果中等少年院に送致する旨の原保護処分決定の言渡を受けたこと、および右審判は少年の両親の出席なくして行われたものであることは、いずれも所論のとおりであるが、記録を調査すれば、原裁判所は少年の父親に対し右審判期日の呼出を行つたこと、および、これに対し、同人から右期日には病気治療のため出席できない旨電話による届出がなされたことが、それぞれ認められるのであり、また、原裁判所は、単に少年が試験観察の補導委託先から逃走したことの一事をもつて、少年に対して原決定を言い渡したものでないことも亦明らかである。すなわち、原裁判所は、少年には原決定摘示のような非行事実が認められるばかりでなく、殊に試験観察の成績等に照らせば少年の性格の偏りは顕著であり、これを矯正するためにはその家庭の保護能力にもかんがみ、少年を少年院に送致して事門的処遇を受けさせる必要があると判断して、少年に対し原決定を言い渡したことが、原決定書の記載によつて認められるとともに、関係資料を総合すれば右判断は正当であるというべきである。そして、凡そ少年に対する保護処分は、当該少年の性格並びに環境に照らして個別的に決定されるべきものであるから、仮りに同一の補導委託先から一旦逃走したにもかかわらず直ちに少年院に送致されない者が他にあつたからといつて、直ちに少年に対する原保護処分決定が不当となるものではない。更に、少年がその補導委託先の中央少年ハウスから逃走したのは仲間から誘われたことによるものであつて、自身では逃げる気は全くなかつたなどという点については、これを認めるに足る資料は存在しない。それ故、原決定には、決定に影響を及ぼす法令の違反も、重大な事実の誤認も、処分の著しい不当もすべて認められないのであつて、論旨は理由がないことに帰する。

よつて、少年法第三十三条第一項に則り本件抗告はこれを棄却すべく、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 津田正良 判事 酒井雄介 判事 四ツ谷巖)

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